2拠点生活エッセイ第10回「雪と過ごして」

今月は、雪にはじまり雪に終わりそうである。

これを書いている今は京都市にいて、街のどこにも雪はない。

けれど私の頭には、このひと月に見た、あちこちの雪景色がずっとある。

ふとしたとき、それらがぼうっと浮かぶのだ。

はじめは大晦日から元日へ、日付が変わる時。
除夜の鐘をつくために訪れた福知山市雲原地区にある龍雲寺(りょううんじ)には、前々日に降った雪が残っていた。

龍雲寺の鐘つきは、お寺の和尚さん一家が見守る中で、参拝者が順番についていくスタイル。

参る人の数が多くないので、かわるがわる何度もつくことができる。

108回つき終わるまでに年が明けてしまうのが恒例で、今回ももう12時になろうとしているところでも、まだ50回目くらいだった。

夫と娘と、2回並んで鐘をついた。

ゴォォォォン

ゴォォォォン

間近でなる鐘は全身にびりびり響いてくる。

鐘をついたあと山の方に目をやると、見事に真っ暗だ。

お寺にともされた明かりのあるところに人が立ち、その人のところへ別の人が近づいて挨拶する。

「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」

言葉を交わすことによって、闇の中にお互いが浮かび上がって来るような感覚を味わった。

つき終わって、他の人がつく姿をぼんやり眺めていると「おでんどうですか」と声がかかる。

お寺のご家族がいつも用意してくれる振る舞いのおでんだ。

そのとき、私のお腹は全然すいていなかった。

晩ごはんに夫がつくってくれたお鍋をたっぷり食べ、大晦日の仕事を終えてから我が家に寄ってくれた近所のおそば屋さんの差し入れアイクリームまで平らげていたからである。

が、おでんの入ったお皿から立ち上る湯気に惹かれて、つい受け取った。

夫はご飯に加えてビールも飲んでいたので、私以上にお腹いっぱいだ。
娘を抱いてもらっている間に、私ひとりで頂くことにした。

大根とこんにゃくをモグモグ食べ、お汁もズズっと飲み干した。

「ごちそうさまでした」と空になったお皿を持っていくと、すぐさま「おかわりどうぞ」と同じ量の入ったお皿を手渡される。

お、お腹は、、
もう本当にいっぱいだけれど、、、

再び、ありがたくいただいた。

そろそろ帰ろうかと話していたら、90代のKさんの姿。

声をかけて新年の挨拶をすると

「吉田はんか、今年もよろしく。また寄ってください」

と答えてくれた。

目尻がにゅ〜と下がり、口角はほわっと上がり、上の前歯だけ見える笑い方。

オレンジ色の灯りを背にして立つKさんのお顔は影になっていたけれど、初めてお出会いした頃より歳月を感じるお顔つきに見えた。

今年もこうして会えて、良かった。

次の雪は1週間後。
京都市から福知山市への道中、美山町の山の中で見た。

福知山市で開催される消防団の出初式に出るために、車で下道を通って福知山へ向かっていた。

美山の雪は、木の葉の緑色と、幹の茶色と、雪の白色がなんとも美しかった。
 
「絵本の中におるみたいやね」

そのまた1週間後、今度は京都市が真っ白になった。

その日は家の壁を自分たちでリフォームする予定だったけれど、雪遊びに変更。

義母Mさんがご自身用に購入されていた新品のソリを、ご本人が使われるより先にお借りして、夫と娘と3人で賀茂川の上流へ向かう。

まばらな雪の降る中を、一歩一歩、落ち着いて歩く。
川沿いに降りる階段では、娘を抱っこする夫がコケてもいいように、私が先に降りた。

北へ行けば行くほど足跡が減っていく。

しかし対岸には、南へ向かって走っている人が定期的に現れる。

「この寒い中、どこまで走ってんやろなぁ」

「雪やからってトレーニングせぇへんってことは無いんかなぁ」

言いながら、自分たちもこの寒い中、構わずソリすべりを楽しみに来ていることを思い出す。

道路から鴨川に向かう、ゆるやかで長めの傾斜を見つけた。
ちょうど階段があって登りやすい。

夫と滑った距離で勝負することにしたので、登るところからシンクロナイズドスイミングの入場シーンのように鼻を高く自信たっぷりの表情で手の指先を伸ばしてキリキリ歩いた。

「入場は点に入らへんで」

夫のツッコミが入る。でも、2回目も同じようにキリキリ歩いた。楽しかったので。

最後に見た雪は、日本各地に大雪をもたらした大寒波による。

月に一度の区の集まりに参加するために、京都市から福知山市へ帰る週とちょうど重なった。

ソリすべりのときは雪があることを予定を変えるほど喜んだのに、単なる移動となると途端に不安の種に変わった。

朝8時に車で出発。
普段は勢いよく対向車が走ってくる危ない道も、ゆっくりゆっくり走る車ばかりだった。

街の動きが全体的にスローになっている。

車の中から、暮らす人それぞれの雪との過ごし方が見えた。

家の前の雪を、小さいほうきで履くおばあさん。

のぼり坂でつるつるすべりながら、それでもバイクにまたがるお兄さん。

歩行者信号の下には、高めのハイヒールを履いて待つお姉さんと自転車にまたがるおばさん。

どーんと道の真ん中で立ち往生して、ハザードランプをカチカチつけるトラック。

除雪車に乗って雪をかくおじさん、その様子を『除雪状況』と書かれた板をおいて撮影するおじさん。

道路ギリギリのところまで出て、身長ほどもあるスコップで雪をかくおばあさん。

雪で休校になったのか、平日の朝なのにずいぶんひっそりとした小学校。

屋根に、こんもり雪がつもった家々。

雪をかぶり、青白い顔をしている山々。

雲原まで帰ったら、車道から家の脇の道までは除雪車が雪をかいてくれていてラクラク登れた。

その脇道から家までは自分で雪をかく。
さらさらのパウダースノーは、とても軽い。

どんどん、かく。

キラキラの雪。チカチカしてくる目。

身体があたたまったところでちょうど終わる。

次の日にどうしても京都市にいなければならない夫を福知山駅まで送ったあとの夕方、娘が40度の熱を出した。
急いで病院へ向かい、区の集まりもお休みさせて頂いた。

抗生物質をもらった4日間は、福知山の実家に引っ込み外へ出ることなく過ごした。

窓の外には、雪がどんどん積もっていく。

熱があろうと娘の好奇心が止むことはなく、ゼイゼイ言いながらハイハイとつたい歩きで実家の探索に余念がなかった。

数日後、熱の下がった娘と京都市へ帰るべく、久しぶりに2人で電車に乗る。

福知山駅からしばらく、車窓は見事な雪国だ。

綾部駅に差し掛かる前に娘を寝かしつけ、ふたたび車窓に目をやると、吹雪の向こうに太陽があった。

吹雪と雲のおかげで、丸い形がくっきりしている。

しばし見惚れたその姿は、雪の日だからこそ見えるものだった。

過ぎていった日々を振り返ると、その近くにあった雪まで意味をもって大事に思えてくる。

移動のときは間違いなく、邪魔だなぁと感じていたのに。

その影も形もなくなった京都市にいるうちは、雪景色をぼうっと思い出す時間をこっそり持っておこうと思う。

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吉田美奈子
農家民宿「雲の原っぱ社」宿主。1989年生まれ。福知山市で生まれ育つ。京都女子大学現代社会学部現代社会学科卒業後、NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝で地域教育に関わる。2012年、福知山市の雲原地区へ単身移住。2016年、結婚を機に京都市との2拠点生活スタート。同年11月、女児の母となる。クマと星野源と夫が好き。 ツイッター▷@kumonoharappa ホームページ▷雲の原っぱ社

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