2拠点生活エッセイ 第1回「ただいま」から「ただいま」

結婚を機に、夫か妻がどちらかの生活圏に合わせて移住することは多い。

しかし、考えてみれば、誰もが必ずそうしなければならないわけではない。

「どっちかに決めんでもいいと思う」

後に夫となる人が言ったその言葉に

そ、そんな道があったのか!と目から鱗が落ちた。

2拠点生活は、私たちが夫婦になっても、それぞれが続けたい暮らしをお互いに大切にできる、希望の道だと思った。

月・木曜日は、移動の日。

月曜日と木曜日は、移動の日だ。
移動するのは、夫と、生後5ヶ月になる娘、そして私の3人。

ズレることもあるけれど、月・木曜日は夫の仕事終わりに合流して、福知山へ移動することが多い。

ベビーカーに娘を乗せたら、私はおむつやおしり拭きなど、娘に必要なものが入ったリュックを背負う。

夫のリュックには、彼の仕事道具であるノートパソコンが入っている。
動きやすいよう、足元は大抵の場合スニーカーを履く。

出発地は京都市。
行き先は、福知山市雲原。
京都市内から地下鉄、JR、車を乗り継ぎ3時間弱。

旅に出るのではない。
私たちの、もう一つの家に帰るのだ。

私たち家族は、京都市と福知山市を行ったり来たりして暮らしている。

どちらの地域にも自宅があるので、2拠点生活と呼んでいる。

火・水・木曜日は京都市。
夫はプログラマーとして会社に出勤して仕事をし、私は自宅で娘と過ごす。

金・土・日・月曜日は、福知山市。
夫は山の中の自宅で普段通りに仕事をして、私は借りている田んぼで米を作って、農家民宿を開く。

結婚するからって、雲原生活やめたくない

どうしてそんな生活をしているのかというと、話は夫と付き合い始めた頃にさかのぼる。

「結婚するからって、雲原生活やめたくない」

と私が言ったとき

「僕も田舎で生活したいよ。でも京都の暮らしも好きやしな、田舎だけとか都会だけとか、どっちかに決めんでもいいと思う」

と夫が答えたのである。

『雲原生活』とは、福知山市の雲原(くもはら)地区で、2012年秋から1人で始めたことだった。

福知山市は地元でもあるが、実家のある中心地と山間地の雲原地区とは車で40分ほど離れている。

雲原地区を知ったきっかけは、地域の方々が主催する『歩こう会』という山を歩くイベントである。

地域の方々の風通しの良い人柄に感銘を受け、ここで暮らしたら、皆さんみたいになれるんちゃうかなぁ?と移住したのだ。

一軒家に住みながら憧れた地域の方々と日々関わり、消防団員になったり、100円カフェを開いたり、シカやイノシシに遊ばれつつ農作業をしているうちに、あっという間に5年の月日が流れた。

いまでは『雲原の父』『雲原の母』と呼べるような間柄の人もいて、私にとって雲原は、これまで暮らしたどこよりも大切にしたい地域になっている。

一方、移住当初に『とりあえず10年関わる』と決めていたので、

結婚するなら、この山の暮らしに抵抗がない人に婿養子に来てもらわないと!

というくらい、ある意味で思いつめており、『結婚後も雲原で暮らし続けること』は結婚成立への最大にして唯一のハードルだと捉えていた。

しかし、夫になる人は、そのハードル自体を持ち合わせていなかった。

幸いなことに、彼はインターネット環境があればどこでも仕事ができるし、私も大学時代を京都市で過ごしていたので、まったく知らない土地での暮らしが新たに増えるわけでもない。

こうして、ナイスアイディアをくれた夫とめでたく結婚し、京都市と福知山市を行き来する2拠点生活が始まったのである。

娘を授かってからの妊娠中も行き来は続き、気づけば1年と2か月が経っている。

2拠点生活は周りの方々との協働プロジェクト

当初、疲れるかな、と思っていた移動は、夫と娘が一緒だからこそあっという間で、小旅行のように楽しめる余裕もあると分かった。

一方、特に雲原において気がかりだった『地域の集まりに顔を出せないこと』は1人で雲原に住んでいた頃より、やはりグッと増えてしまった・・・。

だが、『雲原の父』や『雲原の母』と電話やLINEでつながっているおかげで、必要最低限の情報共有はできているし、たとえば、月に一度ある区費などの集金の会『お金寄せ』に参加できないときは、次の月にまとめて払わせて頂くという措置を取っていただいている。

そう、2拠点生活は移動する私たち家族だけの取り組みではなく、周りの方々との協働プロジェクトなのである。

京都市と福知山市。片道115kmにも及ぶ長距離横断プロジェクトが、この先どこに向かうのか、私たちにも分からない。

しかし、すでにどちらの地域でも関わる人(お世話になる人ともいう)が増え、どちらかの地域に暮らすだけでは味わえない出来事が起き始めている。

「おかえり」と迎えてくれる人がいてこそ、「ただいま」と言えるのだということをいつも心に置きながら、「いい加減にしろ!」と叱られることもあるかもしれないけれど、これからも2拠点生活に取り組んでいきたいと思う。

よろしければ、どうぞご一緒にお楽しみくださいね。

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吉田美奈子
農家民宿「雲の原っぱ社」宿主。1989年生まれ。福知山市で生まれ育つ。京都女子大学現代社会学部現代社会学科卒業後、NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝で地域教育に関わる。2012年、福知山市の雲原地区へ単身移住。2016年、結婚を機に京都市との2拠点生活スタート。同年11月、女児の母となる。クマと星野源と夫が好き。 ツイッター▷@kumonoharappa ホームページ▷雲の原っぱ社