2拠点生活エッセイ第11回「魚が食卓に上がるには」

京都市の家で朝ごはんを食べたばかりの夫に晩ごはんの相談をしたら「魚が食べたい」と返ってきた。

魚か。納得である。
最近食べてないなと私も思っていた。

実際、昨日の買い出しでも魚売り場をチラッと見た。でもすぐに視線を前に戻して、カートをコロコロ押して肉売り場へ急いだ。

肉が鶏・豚・牛の3択から絞っていけるのに対して、魚ははじめの選択肢が多すぎる。しかも刺し身から焼いたり煮たり加工されたものまで何通りも並ぶので、基本的に迷わされる。

娘との散歩帰りに寄った疲労感のある身には、ショーケースの中の膨大な品からどれを選び、どう料理するか考えて決める体力は残っていなかった。結果、なんにでもなる豚バラ肉を選んでレジへ向かい、彼らは味噌汁の具となり今朝また飲まれたのである。

そんな中、ついに魚を選ぶときがやってきた。

自分だけで食べるなら魚といえばサバ1択だ。
産前産後から私の中で一大サバブームが起こり、いつでも食べられるよう生協の冷凍サバを常備していた。しかし今回はせっかくだから、もう少し視野を広げてみたい。

サバでないなら、サケかしら。
サケといえば、ムニエルか。
ムニエル、食べたい気もする。

いつか福知山市雲原のIさんのお家にお邪魔した際、奥さんのMさんが作ってくれたムニエルは味付けがバターだけなのにめちゃくちゃおいしかった。

あの魚の名前は・・・なんだったか。

白身魚ということしか覚えていないけれど、息子さんが釣ってきた魚を頂いたのだ。

釣ってきた魚って、選ぶ余地がなくて良いな。

そういえば、雲原では「ナスいらんか」「里芋持って来たで」「イノシシいるやろ」など、その日出会った方々からの急なもらいものから晩ごはんが決まることが多い。

しかも「焼いて食べたらええ」「圧力鍋でやらかぁして(やわらかくして)」とか、おいしい食べ方をざっくり教えてくれるので、活用法にも悩まなくていい。
なんと助けられていたことだろう。

ああ、雲原のあの急な素材の出現が懐かしい。

ああでも、京都にいるときも目と鼻の先に暮らす義母Mさんが「色々あるけど、これがおいしいの」と生協の刺身を選んで届けてくださることはある。

そうだ、我が家の食卓に魚が出現するかどうかは、義母Mさんによって支えられてもいた。

夫を送り出して、洗濯物を回して、コーヒーを飲んで、娘のおむつを変えて、テレビを見て、頭の中で魚をぐるりとまわしてみたが、これといって何も浮かばず。

夕方、自宅から少し遠いが新鮮な魚が並んでいそうなスーパーへ出かけた。

スーパーの売り場にたどり着き、素材を見て具体的な料理名が思いつくほど魚料理に慣れていないのだと改めて実感させられ脱力する。

今はアサリが旬らしい。
アサリか、そういえばそれも雲原で塩抜きしたものをもらったことがあったなぁ。

最終的に、調理済みでパックに入った白身魚のバジルソテーとサバの塩焼きにした。
新鮮さでこのスーパーを選んだことはとっくに忘れていた。

やっぱり私はサバを食べたかったし、Iさんの白身魚が恋しくなったのである。

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この記事を書いた人

農家民宿「雲の原っぱ社」宿主。1989年生まれ。福知山市で生まれ育つ。京都女子大学現代社会学部現代社会学科卒業後、NPO法人暮らしづくりネットワーク北芝で地域教育に関わる。2012年、福知山市の雲原地区へ単身移住。2016年、結婚を機に京都市との2拠点生活スタート。同年11月、女児の母となる。クマと星野源と夫が好き。

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